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はせくらじけん

支倉事件

甲賀 三郎

「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页

青空文庫

少しばかり動産をつけて置いたものですからね」

人の好さそうな谷田は恰でそれが昨日の事ででもあったように口惜しそうな顔をした。

「で、先っ刻申上げた通り、当時は支倉を少しも疑わず、寧ろ親切を喜んでいたのですが、後に外から聞き込んだ事の為に、私の場合もてっきり、支倉が自分の家に火をつけ、そっと密告状を書いて、私を訴えて嫌疑を外らしたのだと信じるのです」

「その外から、聞いたと云う話は?」

石子は谷田の話がかつて根岸刑事の推察した通りなので、彼の明察に敬服しながら聞いた。

「こゝの火事の後間もなく支倉は高輪の方へ越したのですが、二年経つか経たないうちに又々火事に遭ったのですね。その時も半焼だったのですが、彼は保険の勧誘員に二百円賄賂を贈りましてね、全焼と云う事にして、保険金の全額をせしめたのです」

「どうしてそれが分りましたか」

石子は膝を進めた。

「この賄賂を取った男から直接に聞いたのです。その男は外にも悪い事をしたと見えましてね、間もなく辞められましてね、私の勤めている会社へ暫く雇われていました。そんな風な男ですから、やっぱり真面目に勤まらず、先年辞職しましたが、私の宅へ遊びに来た時に、隣に支倉がいたと云う事を聞いて、懺悔話をして聞かせたのです。