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はせくらじけん
支倉事件
甲賀 三郎
「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页
「さあ、外のものは注意して元通り置いたんですが、吸取紙はつい下からおかみさんが上って来たもんですから、あわてゝ机の上へ置きましたので、元の位置より狂ったかも知れません」
岸本は弁解した。
「そこだ。いゝかね、奴さんの位置に立って見る。うっかり残した吸取紙の文字ははっきり分るのはホンの二、三字だけれども、何分東京市内の番地だから少し頭を使えば直ぐ判じられて終う。さあ困った。そこで一計を案じて、いかにも吸取紙に残った所らしくて、恰で違った所を考え出して、本当らしく持かけて態と敵の手に渡して終う。そうするとよしその計を看破られても元々だし、敵が軽々に信じて終えば、吸取紙の字から推断されるだろう所の本当の場所を知られずにすむ。敵ながら天晴の方法じゃないか」
「成程」
岸本は感嘆した。
「奴も中々偉いが、石子さんも偉いなあ」
「感心していちゃいけない」
石子は少し機嫌を直しながら、
「所で吸取紙に残っていたと云う字は何々だっけね」
「『本』之は区の名ですね、本所でなければ本郷ですね、之だけは確です。それから町の名が森だか林だかで始まるのです。その次が川らしいのです。それから何と云うか兎に角何とか内写真館です」