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ほうろう

放浪

織田 作之助

「文學界 第七年第五号」文藝春秋、1940(昭和15)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,399 字 · 47 页

青空文庫

うかうかと夜歩きを美津子はして、某生徒に胸を押えられ、ガタガタ醜悪に震えた。生国魂神社境内の夜の空気にカチカチと歯の音が冴えるのであった。やがて、思いが余って、捨てられたらいややしと美津子は乾燥した声でいい、捨てられた。

日がたち、妊娠していると両親にも判った。女学校の卒業式をもう済ませていることで、両親は赤新聞の種にならないで良かったと安堵した。ある夜更け美津子の寝室の前に佇んでいたといわれて、嫌疑は順平にかかった。順平はなぜか否定する気にもならなかったが、しかし、美津子を見る目が恨みを呑んだ。雨の夜、ふらふらと美津子の寝顔に近づいたが、やはり無暴だった。美津子の眼は白く冴えて、怖ろしく、順平の狂暴な血は一度にひいた。

丸亀夫婦は美津子から相手は順平でないと告げられると、あわてて、何か改って順平を長火鉢の前へ呼び寄せ、不束な娘やけど、貰ってくれといった。順平ははっと両手をついてありがとうございますと、かねてこの事あるを予期していた如き挨拶であった。見れば、畳の上にハラハラと涙をこぼし、眼をこすりもしないで芝居がかった容子であるから、丸亀夫婦も舞台に立ったような思いいれを暫時した。