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ほうろう

放浪

織田 作之助

「文學界 第七年第五号」文藝春秋、1940(昭和15)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,399 字 · 47 页

青空文庫

弁護士になっているだろうと思ったのに、そこは見るからに貧民窟で、木下は夜になると玉ノ井へ出掛けて焼鳥の屋台店を出しているのだった。木下もやがて四十で、弁護士になることは内心諦めているらしく、彼の売る一本二銭の焼鳥は、ねぎ八分で、もつが二分、酒、ポートワイン、泡盛、ウイスキーなどどこの屋台よりも薄かった。木下は毎夜緻密に儲の勘定をし、儲の四割で暮しを賄い、他の四割は絶対に手をつけぬ積立貯金にし、残りの二割を箱にいれ、たまるとそれで女を買うのだった。

木下が女と遊んでいる間、順平は一人で屋台を切り廻さねばならなかった。どぶと消毒薬の臭気が異様に漂うていて、夜が更けると大阪ではきき馴れぬあんまの笛が物悲しく、月の冴えた晩人通りがまばらになると殺気が漲っているようだった。大阪のでん公と比べものにならぬほど歯切れの良い土地者が暖簾をくぐると、どぎまぎした。兄ちゃんは上方だねといわれると、え、そうでんねと揉手をし、串の勘定も間違い勝ちだった。それでも、臓物の買い出しから、牛丼の飯の炊出し、鉢洗い、その他気のつく限りのことを、遊んでいろという木下の言葉も耳にはいらぬ振りして小まめに働いていたが、ふと気がついみると、木下は自分の居候していることを嫌がっているようであった。