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もじのあるしへん

文字のある紙片

宮本 百合子

「文芸春秋」1924(大正13)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,518 字 · 6 页

青空文庫

不幸なぞっとする事実だ。私は、自分と云うものさえ局外から観察し、悲しむべき人間のコムビネイションから生じた人生の一ツの悲劇として、それから卒業出来ると思った。ところが違う。明るみに出るにはなかなかだと解った。原因は、良人である彼に、左様な異常な死を死なれたからではない。彼を生かし、きっと幸福にしてやれる確信も自分にもたないのに、死ななかったら仕合にしてあげたのという出鱈目な気休めは云えない。ああ云う破綻がさけようとしても避けられない運命的な災難であると仮定しても私が参るのは、それを素直に、わあっと泣いて仕舞えない自分の心だ。悲しさは涙という。よい。特に女性の脳細胞にはよい鎮経剤であるものを伴って来る。然し苦しさには、涙が道づれでない。悲歎は嵐だ。或る時は、春さきの暴風雨だ。濡れた心から芽が萌える。苦しさ、この苦しさは旱魃だ。乾く。心が痛み、強ばり罅が入る。

私はどうかして一晩夢中で悲しみ、声をあげて泣き、この恐ろしい張りつめた心の有様から逃れたい。私の感傷は何処に行った。ああ本当に泣けさえしたら!

考えて見れば、私は、彼の行方が知れなくなった時、あの縁側に佇み、青葉をつけ始めた樹木を眺めながら「さては」