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ぶんがくにおけるこんにちのにほんてきなるもの
文学における今日の日本的なるもの
宮本 百合子
「文芸春秋」1937(昭和12)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,792 字 · 20 页
冷たくするであろうか。
今日の社会的情勢は、日本のブルジョア作家の大部分がそこに属している小市民、中農の経済事情を極端に劣悪にしている一方、従来の文学の立前においては精神の牙城を喪っている。荒涼たる心持で周囲を眺め、大人の文学をつくり、その大人の文学によって現実社会で官吏、実業家、軍人等によって占められている支配的上層部に伍そうとしたとして、それは容易なことであるだろうか。
フランスではユーゴーが宰相であり、ドイツではゲーテが宰相であり、イギリスで十八世紀文学を指導した文学者はそれぞれ顕職にあったという例は、今日までのところわが日本の社会では再現し難い。日本の近代社会の成り立ち、官製文明国としての特質が、日本的な現実性においてそうあらしめないであろう。
若し、社会的条件がそれを可能ならしめるならば、例えば犬養健氏、水上瀧太郎氏等の文学が、今日在るのとは全然変ったものとして生れたであろう。単に作家的才能云々の理由ではないのである。
私が、一部の読者を退屈させながら、この文章の前半に長々しく明治文学の略図を描いたのも、ここのところの歴史的の姿をもう一度、読者の判断の前に供したかったからである。