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ぶんらくざのにんぎょうしばい
文楽座の人形芝居
和辻 哲郎
「思想」1935(昭和10)年8月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,733 字 · 10 页
ここまでくると我々は「人形」という概念をすっかり変えなくてはならなくなる。ここに作り出された「人の形」はただ人形使いの運動においてのみ形成される形なのであって、静止し凝固した形象なのではない。従って彫刻とは最も縁遠いものである。
たぶんこの事を指摘するためであったろうと思われるが、桐竹紋十郎氏は「狐」を持ち出して、それが使い方一つで犬にも狐にもなることを見せてくれた。そうしてこういう話をした。ある時西洋人が文楽の舞台で狐を見て非常に感心し、それを見せてもらいに楽屋へ来た。人形使いはあそこに掛かっていますと言って柱にぶら下げた狐をさした。それは胴体が中のうつろな袋なので、柱にかかっている所を見れば子供の玩具にしか見えない。西洋人はどうしても承知しなかった。舞台で見たあの活き活きとした狐がどんなに精妙な製作であろうかを問題として彼は見に来たのであった。そこで人形使いはやむなく立って柱から狐を取りそれを使って見せた。西洋人は驚喜して、それだそれだと叫び出したというのである。西洋人は彫刻的に完成せられた驚くべき狐の像を想像していたのであった。しかるにその狐は人形使いの動きの中に生きていたのである。