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やみのしらが

文豪怪談傑作選・特別篇 百物語怪談会

沼田 一雅

沼田一雅『文豪怪談傑作選・特別篇 百物語怪談会』。同一底本的分册已合并为一书。收入:暗夜の白髪、白い光と上野の鐘。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,076 字 · 11 页

青空文庫

暗夜の白髪

最早九年ばかり以前の事だ、当時私の宅へよく遊びに来た芝警察署詰の某氏の実見談である。その男というのはその時分丁度四十一二ぐらいで、中々元気な人だったし、且つ職務柄、幽霊の話などは初から「何んの無稽な」と貶した方だった、がしかしその男がこの時ばかりは「君実際恐怖かったよ」と顔色を変えて私に談したくらいだから、当人は余程凄かったものだろう、いや聴いていた私さえその時に思わずゾーッとしたくらいだったから。咄というのは斯うだ。何でも当時その男が転居をした家の出来事だ。所は芝烏森で俗に「林の屋敷」と呼ばれていた屋敷長屋の端れの家だったが、家内の間取といい、庭の趣といい、一寸気取った家で、凡て上方風な少し陰気ではあったが中々凝った建方である、殊に便所は座敷の傍の細い濡椽伝いに母家と離れている様な具合、当人も頗る気に入ったので直に家主の家へ行って相談してみると、屋賃も思ったより安値いから非常に喜んで、早速其処へ引移ることにした。

さて家人が其処へ転居してから一週間ばかりは何の変事も無かった、が偶然或夜の事――それは恰度八月の中旬のことであったが――十二時少し過ぎた