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あたらしきシベリアをよこぎる

新しきシベリアを横切る

宮本 百合子

「女人芸術」1931(昭和6)年1月、2月号

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 12,232 字 · 25 页

青空文庫

麻の大前垂をかけ、ニッケルの番号札を胸に下げて爺の赤帽は、ぼんやりした口調で、

――波止場へは別だよ。

と答えた。

――遠い? ここから。

――相当……

馬車を見つけなければならないのだそうだ。

――ここに待ってて! いい?

Y、赤帽つれてどっかへ去った。十分もして赤帽だけが戻って来た。最後の荷物を運ぶのについてったら、駅の正面に驢馬みたいな満州馬にひかせた支那人の荷馬車が止ってて、我々の荷物はその上につまれている。

支那人の馬車ひきは珍しく、三年前通ったハルビンの景色を思い出させた。三年の間に支那も変った。支那は今百余の県に労働兵卒ソヴェトをもっている。

――うまく見つけたろ? 波止場まで七ルーブリだって。

もう明るい。電車はごくたまにしか通らず、人通りの少い、支那人とロシア人が半々に歩いている街を、馬車について行く。右手に、海が見えた。汽船も見える。――

波止場まで遠い。Y、小走りで先へゆく荷車に追いついたと思うと両手に下げてた鞄と書類入鞄を後から繩をかけた荷物の間へ順々に放りあげ、ひょいと一本後に出てる太い棒へ横のりになった。尻尾の長い満州馬はいろんな形の荷物と皮外套を着たYとをのっけて、石ころ道を行く。