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にいづまのしゅき

新妻の手記

豊島 与志雄

「再建評価」1949(昭和24)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,807 字 · 22 页

青空文庫

ただ一つ、文学、といってもつまらぬ翻訳だけだが、その点は母の代行をするのだった。つまり、母にとっては、私がその夢想の後継者であったろう。夢想の後継者で、そして日常生活では女中、いずれにしても、自主的な主婦とは縁遠い。

或は、一歩退いて考えてみるに、日常生活に於ても母は私を後継者に仕立てるため、些細な点まで訓練しようとしてるのかも知れなかった。すっかり母の型にはまるまで、女中の地位に置いて独り歩きをさせなかったのではあるまいか。然し、それにしては、おかしなことがあった。

風邪をひきこんで、私は一週間ばかり寝たことがある。その時母は実母にもまさるほど親切にいたわってくれた。熱の高い時は、夜遅くまで起きていてくれ、夜中にも起上って氷枕を取り代えてくれた。検温、服薬、食事、すべて一定の時間にしてくれた。食物にも気を配ってくれた。そういう看護を、母は少しも面倒くさがる様子がなく衷心から自然にやってくれたのである。そして一方で、日常通りに家事を運行していった。私は感嘆し、また感謝し、涙で枕をぬらしたこともある。

母はなかなか私を起き上らせてくれなかった。すっかり全快するまではだめだと言うのである。