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しんぱん ほうろうき
新版 放浪記
林 芙美子
「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页
私がこの家に来て丁度二週間になる。もらいはかなりあるのだ。朋輩が二人。お初ちゃんと言う女は、名のように初々しくて、銀杏返のよく似合うほんとに可愛い娘だった。
「私は四谷で生れたのだけれど、十二の時、よその小父さんに連れられて、満洲にさらわれて行ったのよ。私芸者屋にじき売られたから、その小父さんの顔もじき忘れっちまったけれど……私そこの桃千代と云う娘と、広いつるつるした廊下を、よくすべりっこしたわ、まるで鏡みたいだったの。内地から芝居が来ると、毛布をかぶって、長靴をはいて見にいったのよ。土が凍ってしまうと下駄で歩けるの。だけどお風呂から上ると、鬢の毛がピンとして、とてもおかしいわよ。私六年ばかりいたけど、満洲の新聞社の人に連れて帰ってもらったの。」
客が飲み食いして行った後の、こぼれた酒で、テーブルに字を書きながら、可愛らしいお初ちゃんは、重たい口で、こんな事を云った。もう一人私より一日早くはいったお君さんは背の高い母性的な、気立のいい女だった。廓の出口にあるこの店は、案外しっとり落ちついていて、私は二人の女達ともじき仲よくなれた。こんな処に働いている女達は、初めはどんなに意地悪くコチコチに用心しあっていても、仲よくなんぞなってくれなくっても、一度何かのはずみで真心を見せ合うと、他愛もなくすぐまいってしまっ