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しんぱん ほうろうき

新版 放浪記

林 芙美子

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页

青空文庫

ああ情熱の毛虫、私は一人の男の血をいたちのように吸いつくしてみたいような気がする。男の肌は寒くなると蒲団のように恋しくなるものだ。

東京へ行きましょう。夕方の散歩に、いつの間にか足が向くのは駅への道だ。駅の時間表を見ていると涙がにじんで来て仕方がない。

(十二月×日)

赤靴のひもをといてその男が座敷へ上って来ると、妙に胃が悪くなりそうで、私は真正面から眉をひそめてしまった。

「あんたいくつ?」

「僕ですか、二十二です。」

「ホウ……じゃ私の方が上だわ。」

げじげじ眉で、唇の厚いその顔は、私は何故か見覚えがあるようであったが、考え出せなかった。ふと、私は明るくなって、口笛でも吹きたくなった。

月のいい夜だ、星が高く光っている。

「そこまでおくってゆきましょうか……」

この男は妙によゆうのある風景だ。入れ忘れてしまった国旗の下をくぐって、月の明るい町に出てゆくと、濁った息をフッと一時に吐く事が出来た。一丁歩いても二丁歩いても二人共だまって歩いている。川の水が妙に悲しく胸に来て私自身が浅ましくなってきた。男なんて皆火を焚いて焼いてしまえだ。私はお釈迦様にでも恋をしましょう。