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しんぱん ほうろうき

新版 放浪記

林 芙美子

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页

青空文庫

」と云った。暗い部屋の中では、花の匂いだけが強く私達をなやませた。

(二月×日)

積る淡雪積ると見れば

消えてあとなき儚なさよ

柳なよかに揺れぬれど

春は心のかわたれに……。

時ちゃんの唄声でふっと目を覚ますと、枕元に白い素足がならんでいた。

「あら、もう起きたの。」

「雪が降ってるのよ。」

起きると湯もわいていて、窓外の板の上で、御飯がグツグツ白く吹きこぼれていた。

「炭はもう来たのかしら?」

「階下の小母さんに借りたのよ。」

いつも台所をした事のない時ちゃんが、珍らしそうに、茶碗をふいていた。久し振りに猫の額程の茶ブ台の上で、幾年にもない長閑なお茶を呑むなり。

「やまと館の人達や、当分誰にもところを知らさないでおきましょうね。」

時ちゃんはコックリをして、小さな火鉢に手をかざしている。

「こんなに雪が降っても出掛ける?」

「うん。」

「じゃあ私も時事新聞の白木さんに会ってこよう。童話が行ってるから。」

「もらえたら、熱いものをこしらえといて、あっちこっち行って見るから、私はおそくなることよ。」

初めて、隣の六畳の古着屋さん夫婦にもあいさつをする。鳶の頭をしていると云う階下のお上さんの旦那にも会う。