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しんぱん ほうろうき

新版 放浪記

林 芙美子

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页

青空文庫

×日より御出社を乞う。私は胸がドキドキした。今日から株屋の店員さんだ。私は目の前が明るくなったような気がした。パラソルを二十銭で屑屋に売った。

日立商会、これが私のこれからお勤めするところなり。隣が両替屋、前が千代田橋、横が鶏肉屋、橋の向うが煙草屋、電車から降りると、私は色んなものが豊かな気持ちで目についた。荻谷文子、これが私の相棒で、事務机に初めて差しむかいになると、二人共笑ってしまった。

「御縁がありましたのねイ。」

「ええ本当に、どうぞよろしくお願いします。」

この人は袴をはいて来ているが、私も袴をはかなくちゃいけないのかしら……。二人の仕事はおトクイ様に案内状を出す事と、カンタンな玉づけをならって行く事だった。相棒の彼女は、岐阜の生まれで小学校の教師をしていたとかで、ネーと云う言葉が非常に強い。「そうしてねイー」二人の小僧が真似をしては笑う。お昼の弁当も美味し、鮭のパン粉で揚げたのや、いんげんの青いの、ずいきのひたし、丹塗りの箱を両手にかかえて、私は遠いお母さんの事を思い出していた。

ニイカイ サンヤリ!

自転車で走って小僧がかえって来ると、店の人達は忙がしそうにそれを黒板に書きつけたり電話をしている。