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しんぱん ほうろうき

新版 放浪記

林 芙美子

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页

青空文庫

尾道についたら半分高松へ送ってやりましょう。東京へかえったら、氷屋もいいな、せめて暑い日盛りを、ウロウロと商売をさがして歩かないように、この暮は楽に暮したいものだ。私は体を延ばして走る船の上から波に手をひたしていた。手を押しやるようにして波が白くはじけている。五本の指に藻がもつれた糸のようにからまって来る。

「こんどのストライキは、えれえ短かかったなあ――」

「ほんまに、どっちも不景気だけんな。」

船員達が、ガラス窓を拭きながら話している。私はもう一度ふりかえって、青い海の向うの島を眺めていた。

*

(四月×日)

――その夜

カフエーの卓子の上に

盛花のような顔が泣いた

何のその

樹の上にカラスが鳴こうとて

――夜は辛い

両手に盛られた

わたしの顔は

みどり色の白粉に疲れ

十二時の針をひっぱっていた。

横浜に来て五日あまりになる。カフエー・エトランゼの黒い卓子の上に、私はこんな詩を書いてみた。「俺くらいだよ、お前と一緒にいるのは……誰がお前のような荒んでボロボロに崩れるような女を愛すものか。」

あの東京の下宿で、男は私に思い知れ、思い知れと云う風な事を云うのです。