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しんぱん ほうろうき
新版 放浪記
林 芙美子
「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页
争って別れた二人だけれども、偶然にこんなところで会うと、二人共沈黙って笑ってしまう。あのひとは鰻がたべたいと云う。二人で鰻丼をたべにはいる。何か心楽し。浴衣の金を皆もたせてやる。病人はいとしや。――母より小包み来る。私が鼻が悪いと云ってやったので、ガラガラに乾してある煎じ薬と足袋と絞り木綿の腰巻を送って来た。カフエーに勤めているなんて云ってやろうものなら、どんなにか案じるお母さん、私は大きいお家の帳場をしていると嘘の手紙を書いて出した。
夜。
お君さんが私の処へたずねて来た。これから質屋に行くのだと云って大きい風呂敷包みを持っていた。
「こんな遠い処の質屋まで来るの?」
「前からのところなのよ。板橋の近所って、とても貸さないのよ……」
相変らず一人で苦労をしているらしいお君さんに同情するなり。
「ね、よかったらお蕎麦でも食べて行かない、おごるわよ。」
「ううんいいのよ、一寸人が待っているから、又ね。」
「じゃア質屋まで一緒に行く、いいでしょう。」
その後銀座の方に働いていたと云うお君さんには若い学生の恋人が出来ていた。
「私はいよいよ決心したのよ、今晩これから一寸遠くへ都落ちするつもりで、実は貴女の顔を見に来たの。