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しんぱん ほうろうき

新版 放浪記

林 芙美子

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页

青空文庫

お上さんはいよいよ入院してしまった。出前持ちのカンちゃんが病院へ行って帰ってこないので、時ちゃんが自転車で出前を持って行く。べらぼうな時ちゃんの自転車乗りの姿を見ていると、涙が出る程おかしかった。とにかく、この女は自分の美しさをよく知っているからとても面白い。――夕方風呂から帰って着物をきかえていると、素硝子の一番てっぺんに星が一つチカチカ光っていた。ああ久しく私は夜明けと云うものを見ないけれど、田舎の朝空がみたいものだ。表に盛塩してレコードをかけていると、風呂から女達が順々に帰って来る。

「もうそろそろ自称飛行家が来る頃じゃないの……」

この自称飛行家は奇妙な事に支那そば一杯と、老酒いっぱいで四五時間も駄法螺を吹いて一円のチップをおいて帰って行く。別に御しゅうしんの女もなさそうだ。

三番目。

私の番に五人連のトルコ人がはいって来た。ビールを一ダース持って来させると、順々に抜いてカンパイしてゆくあざやかな呑みぶりである。白い風呂敷包みの中から、まるでトランクのように大きい風琴を出すと、風琴の紐を肩にかけて鳴らし出す。秋の山の風でも聞いているような、風琴の音色、皆珍らしがってみていた。