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しんぱん ほうろうき

新版 放浪記

林 芙美子

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页

青空文庫

「エロウ・パウダ?」

顔から火の出る思いで聞いてみた。

「オオエス! エス!」

辛子をキュウキュウこねて持って行くと、みんな手の指を鳴らして喜んでいた。

自称飛行家はコソコソ帰っていった。

「トルコの天子さん何て言うの?」

時ちゃんが、エロウ・パウダ氏にもたれて聞いている。

「テンシサンなんて判るもんですか。」

「そう、私はこの人好きだけど通じなきゃ仕方がないわ。」

酒がまわったのか、風琴は遠い郷愁を鳴らしている。ニカイ アガリマショウの男は、盛んに私にウインクしていた。日本人とよく似た人種だと思う、トルコってどんなところだろう。私は笑いながら聞いた。

「アンタの名前、ケマルパシャ?」

五人のトルコ人は皆で私にエスエスと首を振っていた。

*

(九月×日)

古い時間表をめくってみた。どっか遠い旅に出たいものだと思う。真実のない東京にみきりをつけて、山か海かの自然な息を吸いに出たいものなり。私が青い時間表の地図からひらった土地は、日本海に面した直江津と云う小さい小港だった。ああ海と港の旅情、こんな処へ行ってみたいと思う。これだけでも、傷ついた私を慰めてくれるに違いない。