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しんぱん ほうろうき
新版 放浪記
林 芙美子
「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页
」もう二時すぎである。青年は下駄を鳴らして帰って行った。たい子さんは、あの人との子供の骨を転々と持って歩いていたけれど、いまはどうしてしまったかしら、部屋の中には折れた鏝が散乱していた。
(十二月×日)
雨が降っている。夕方時ちゃんと二人で風呂に行った。帰って髪をときつけていると、飯田さんが来る。私は袖のほころびを縫いながら、このごろおぼえた唄をフッとうたいたくなっていた。ああ厭になってしまう。別れてまでノコノコと女のそばへ来るなんて、飯田さんもおかしい人だと思う。たい子さんは沈黙っている。
「こんなに雨が降るのに行くの?」
たい子さんは侘しそうに、ふところ手をして私達を見ていた。
二人で浅草へ来た時は夕方だった。激しい雨の降る中を、一軒一軒、時ちゃんの住み込みよさそうな家をさがしてまわった。やがてきまったのはカフエー世界と云う家だった。
「どっかへ引っ越す時は知らしてね、たい子さんによろしく云ってね。」
時ちゃんはほんとうに可愛い娘だ。野性的で、行儀作法は知らないけれども、いいところのある女なり。
「久し振りで、二人で、別れのお酒もりでもしましょうか……」