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しんぱん ほうろうき

新版 放浪記

林 芙美子

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页

青空文庫

声をたてて泣きたくなる。

八重垣町の八百屋で唐もろこしを二本買って下宿へ帰る。ダットのいきおいで部屋へ行き、唐もろこしの皮をむく。しめった唐もろこしの茶色のひげの中から、ぞうげ色の粒々が行列して出て来る。焼きたいな。こつこつと焼いて醤油をつけて食べたい。

下宿の箱火鉢に紙屑を燃やして根気よく唐もろこしを焼く。

(九月×日)

ははより十円の為替が来る。

ありがたや、かたじけなや。何もかもなむあみだぶつの心持ちなり。

どしゃぶりの雨。下宿に五円入れる。昼飯が運ばれる。切り昆布に油揚げの煮たのに麩のすまし汁。小さいお櫃に過分な御飯。雨を見ながら一人しずかに食事をする愉しさ。敵は幾万ありとてもわが仕事これより燃ゆると意気ごんでみる。食事のあと、静かに腹這い童話を書く。いくつでも出来そうな気がして仲々書けない。

どしゃぶりの雨は西むきの硝子窓の敷居の中にまでいっぱい吹きこんで川のようにたまる。

夜も下宿の飯。

コンニャクとコロッケととろろ昆布のすまし汁。のこりの飯は握り飯にしておく。夜ふけて、野村吉哉さんが尻からげで遊びに来る。全身ずふぬれ。唇が馬鹿に紅い。