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しんぱん ほうろうき
新版 放浪記
林 芙美子
「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页
どんぐりの背くらべの身すぎ世すぎでいて、この仲間の意地の悪さに腹が立つ。
朝、私をみてくすりと笑った料理番はヨシツネさんと云った。料理場へ火さげを持って火を取りに行くと、「お前さん、西洋まげより、その髪の方がずっといいよ」と云ってくれた。そして、「ほい、みかん食べな」と云って小さいみかんを二つ投げてくれる。
ヨシツネさんは定九郎みたいな感じ、与市兵衛を殺しそうな凄味のある顔をしている。
二三日は座敷へも出ないで使い奴だ。火を運ぶ。下足も取る。ビールや酒も運ぶ。十二時がかんばん。足がつっぱって来る程、へとへとに疲れてしまう。枯れすすきや、かごの鳥の唄が賑やかだ。ああ、これでは私の行末は牛の犇きと少しも変らない。
一行の詩一つ書く気力も失せそうだ。あんなに飯をたべたいと望みながら……。夕食は、丼いっぱい山盛りの飯に、いかの煮つけ。ありがたやと食べながら、パンのみに生きるに非ずの思いが湧く。
誰も私の存在なぞ気にかけてくれる人もないだけに安楽な生活なり。ヨシツネさんは馬鹿に親切なり。
「お前さん、こんなとこ始めてかい?」
「ええ……」
「亭主はあるのかい?」