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しんぱん ほうろうき

新版 放浪記

林 芙美子

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页

青空文庫

母を椅子にもおろさないで、私はすぐ、はばかりを借りて連れて行った。腰が曲らないと云うので、男便所の方で後むきに体をささえてやる。何と云う事もなく涙があふれて仕方がないのだ。涙がとまらないのだ。男達の残酷さが身にこたえて来るような気がした。別に、どの人も悪いのではないのだけれども、こうした運命になる自分の身の越度が、あまりに哀れにみじめったらしくてやりきれなくなるのだ。

私は今日から、ものを書く男なぞ好きになるのはやめようと心にきめる。俥夫でも大工でもいいのだ。そんな人と連れ添うべきだ。私も、もう、今日かぎり詩なぞ書くのはふっつりやめようときめる。私の詩を面白おかしく読まれてはたまらない。ダダイズムの詩と人は云う。私の詩がダダイズムの詩であってたまるものか。私は私と云う人間から煙を噴いているのです。イズムで文学があるものか! 只、人間の煙を噴く。私は煙を頭のてっぺんから噴いているのだ。

母をストーヴのそばの椅子に腰かけさせる。座蒲団を借りて、腰を高くして楽にしてやる。

「御飯に、よせなべに、酒を一本頂戴」

酒が十五銭、よせなべが二人前六十銭。飯が一皿五銭。