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しんぱん ほうろうき

新版 放浪記

林 芙美子

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页

青空文庫

考える事も自由に歩く事も出来る国の人の小説だ。進化と、革命という言葉が出て来る。私にはそんな忍耐もいまはない。泥々で渇望の渦のなかに、何も考えないで生きているだけだ。窒息から、かろうじて生きているだけだ。口惜しくなると、そこいらへ小刀で落書きをしたくなる生き方を神様よ御ぞんじですか……。只、こうして手をつかねて風鈴をしのぶ草にくくりつけている。馬鹿に涼しそうだと云って買ってゆく人間の顔が眼に浮ぶ。いまに何とか人生を考えなければなるまい。

夜更けの川添の町を心を竦めて私は歩く。尻からげで、只、黙って歩いている。星なんぞは眼にもはいらない。星なんか、みんな私は私の眼から流してしまう。それきりだ。私が尻からげをして歩いているので、狂人女かと、歩く人が、そっとよけて通ってゆく。私はにやにや笑う。男が来ると、わざと、その方へすたすたと歩いてみる。男は大股に、私の方から逃げてゆく。心のなかでは、疾風怒濤が吹きつけていながら、生きて境界のちがう差異が私には判って来る。自分以外の人間が動いていて、その人間たちが、みんな、それぞれに陰鬱にみえる。

私は、いつでも、売春的な、いやらしい自分の心のはずみに驚く。