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しんぱん ほうろうき
新版 放浪記
林 芙美子
「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页
おてんとうさまよ。どうして、そんなに、じりじりと暑く照りつけて苦しめるのですか? 暑い。全く、暑くて悶死しそうだ。どっかに、巨きな水たまりはありませんかね。鯨の如く汐を噴いてみたいのですよ。
一銭の商売にもありつけず、夕方御きかん。
キャベツにソースをふりかけて、麦飯にありつく。義父はしのぶ売りに出掛けて留守。お母さんは腰巻一枚で洗濯。私も裸になって、井戸水をかぶる。
少女画報から、原稿返っている。
舌を出して封を切る。
奇蹟の森なぞと気取った題をつけても、原稿は案外戻って来る。何も、奇蹟なぞありようがない。信心家の貧しい少女が、パレスチイナでの地を支配する物語なぞ、犬に食われてしまうのは必定、のぼせあがって、世界一の作文なぞに思った事も束の間。ああ、この心のほこりも蝶の如く雨の中にかきつけられてしまいましたである。
井戸水を浴びて、かっかっと火照る躯で畳に腹這い、多少なりとも先途の事を考える。燈をしたって、蛾やかなぶんぶんが飛んで来る。何よりもうるさいのは蚊軍の責め苦なり。
古い文章倶楽部を出して読む。相馬泰三の新宿遊廓の物語り面白し。細君はとり子さんと云うのだそうだが、文章では美人らしい。