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しんぱん ほうろうき

新版 放浪記

林 芙美子

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页

青空文庫

(四月×日)

街の四ツ角で、まるで他人よりも冷やかに、私も男も別れてしまった。男は市民座と云う小さい素人劇団をつくっていて、滝ノ川の稽古場に毎日通っているのだ。

私も今日から通いでお勤めだ。男に食わしてもらう事は、泥を噛んでいるよりも辛いことです。体のいい仕事よりもと、私のさがした職業は牛屋の女中さん。「ロースあおり一丁願いますッ。」梯子段をトントンと上って行くと、しみじみと美しい歌がうたいたくなってくる。広間に群れたどの顔も面白いフイルムのようだ。肉皿を持って、梯子段を上ったり降りたりして、私の前帯の中も、それに並行して少しずつお金でふくらんで来る。どこを貧乏風が吹くかと、部屋の中は甘味しそうな肉の煮える匂いでいっぱいだ。だけど、上ったり降りたりで、私はいっぺんにへこたれてしまった。「二三日すると、すぐ馴れてしまうわ。」女中頭の髷に結ったお杉さんが、物かげで腰を叩いている私を見て慰めてくれたりした。

十二時になっても、この店は素晴らしい繁昌ぶりで、私は家へ帰るのに気が気ではなかった。私とお満さんをのぞいては、皆住み込みのひとなので、平気で残っていて客にたかっては色々なものをねだっている。