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しんぱん ほうろうき
新版 放浪記
林 芙美子
「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页
すると間もなく、頭の真ん中を二つに分けたカチュウシャの髪が流行って来た。
カチュウシャ可愛や 別れの辛さ
せめて淡雪 とけぬ間に
神に願いを ララかけましょうか。
なつかしい唄である。この炭坑街にまたたく間に、このカチュウシャの唄は流行してしまった。ロシヤ女の純情な恋愛はよくわからなかったけれど、それでも、私は映画を見て来ると、非常にロマンチックな少女になってしまったのだ。浮かれ節(浪花節)より他に芝居小屋に連れて行ってもらえなかった私が、たった一人で隠れてカチュウシャの映画を毎日見に行ったものであった。当分は、カチュウシャで夢見心地であった。石油を買いに行く道の、白い夾竹桃の咲く広場で、町の子供達とカチュウシャごっこや、炭坑ごっこをして遊んだりもした。炭坑ごっこの遊びは、女の子はトロッコを押す真似をしたり、男の子は炭坑節を唄いながら土をほじくって行くしぐさである。
そのころの私はとても元気な子供だった。
一カ月ばかり勤めていた粟おこし工場の二十三銭也にもさよならをすると、私は父が仕入れて来た、扇子や化粧品を鼠色の風呂敷に背負って、遠賀川を渡り隧道を越して、炭坑の社宅や坑夫小屋に行商して歩くようになった。