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しんぱん ほうろうき
新版 放浪記
林 芙美子
「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页
青くて高い空を私はいつまでも見上げていた。子供のように涙が湧きあふれて来て、私は地べたへしゃがんでしまうと、カイロの水売りのような郷愁の唄をうたいたくなった。
ああ全世界はお父さんとお母さんでいっぱいなのだ。お父さんとお母さんの愛情が、唯一のものであると云う事を、私は生活にかまけて忘れておりました。白い前垂を掛けたまま、竹藪や、小川や洋館の横を通って、だらだらと丘を降りると、蒸汽船のような工場の音がしていた。ああ尾道の海! 私は海近いような錯覚をおこして、子供のように丘をかけ降りて行った。そこは交番の横の工場のモーターが唸っているきりで、がらんとした原っぱだった。三宿の停留場に、しばらく私は電車に乗る人か何かのように立ってはいたけれど、お腹がすいてめがまいそうだった。
「貴女! 随分さっきから立っていらっしゃいますが、何か心配ごとでもあるのではありませんか。」
今さきから、じろじろ私を見ていた二人の老婆が、馴々しく近よって来ると私の身体をじろじろ眺めている。笑いながら涙をふりほどいている私を連れて、この親切なお婆さんは、ゆるゆる歩きだしながら信仰の強さで足の曲った人が歩けるようになったことだとか、悩みある人が、神の子として、元気に生活に楽しさを感じるようになったとか、色々と天理教の話をしてくれるのであった