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しんぱん ほうろうき
新版 放浪記
林 芙美子
「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页
の住所を切り抜いて麻布のそのお邸へ出掛けて行ってみた。
折目がついていても浴衣は浴衣なのだ。私は浴衣を着て、空想で胸をいっぱいふくらませて歩いている。
「パンをおつくりになる、あの林さんでいらっしゃいましょうか?」
女中さんがそんな事を私にきいた。どういたしまして、パンを戴きに上りました林ですと心につぶやきながら、
「一寸お目にかかりたいと思いまして……」と云ってみる。
「そうですか、今愛国婦人会の方へ行っていらっしゃいますけれど、すぐお帰りですから。」
女中さんに案内をされて、六角のように突き出た窓ぎわのソファに私は腰をかけて、美しい幽雅な庭に見いっていた。青いカーテンを透かして、風までがすずやかにふくらんではいって来る。
「どう云う御用で……」
やがてずんぐりした夫人は、蝉のように薄い黒羽織を着て応接間にはいって来た。
「あのお先きにお風呂をお召しになりませんか……」
女中が夫人にたずねている。私は不良少女だと云う事が厭になってきて、夫が肺病で困っていますから少し不良少年少女をお助けになるおあまりを戴きたいと云ってみた。
「新聞で何か書いたようでしたが、ほんのそう云う事業に手助けをしているきりで、お困りのようでしたら、九段の婦人会の方へでもいらっして、仕事をなさってはいかがですか……」