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しんぱん ほうろうき

新版 放浪記

林 芙美子

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页

青空文庫

」

八重ちゃんが白いくるぶしを掻きながら私を嘲笑っている。

「ヘエ! そんな言葉があったのかね。じゃ私も八重ちゃんの洋傘でも盗んで逃げて行こうかしら。」

私がこんなことを云うと、寝ころんでいた由ちゃんが、

「世の中が泥棒ばかりだったら痛快だわ……」と云っている。由ちゃんは十九で、サガレンで生れたのだと白い肌が自慢だった。八重ちゃんが肌を抜いでいる栗色の皮膚に、窓ガラスの青い雨の影が、細かく写っている。

「人間ってつまらないわね。」

「でも、木の方がよっぽどつまらないわ。」

「火事が来たって、大水が来たって、木だったら逃げられないわよ……」

「馬鹿ね!」

「ふふふふ誰だって馬鹿じゃないの――」

女達のおしゃべりは夏の青空のように朗かである。ああ私も鳥か何かに生れて来るとよかった。電気をつけて、みんなで阿弥陀を引いた。私は四銭。女達はアスパラガスのように、ドロドロと白粉をつけかけたまま皆だらしなく寝そべって蜜豆を食べている。雨がカラリと晴れて、窓から涼しい風が吹きこんでくる。

「ゆみちゃん、あんたいい人があるんじゃない? 私そう睨んだわ。」

「あったんだけれど遠くへ行っちゃったのよ。