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しんぱん ほうろうき

新版 放浪記

林 芙美子

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页

青空文庫

酒場ではお上さんが、一本のキング・オブ・キングスを清水で七本に利殖しているのだ。埃と、むし暑さ、氷を沢山呑むと、髪の毛が抜けると云うけれど、氷を飲まない由ちゃんも、冷蔵庫から氷の塊を盗んで来ては、一人でハリハリ噛んでいる。

「一寸! ラヴレーターって、どんな書出しがいいの……」

八重ちゃんが真黒な眼をクルクルさせて赤い唇を鳴らしている。秋田とサガレンと、鹿児島と千葉の田舎女達が、店のテーブルを囲んで、遠い古里に手紙を書いているのだ。

今日は街に出てメリンスの帯を一本買うなり。一円二銭――八尺求める――。何か落ちつける職業はないものかと、新聞の案内欄を見てみるけれどいい処もない。いつもの医専の学生の群がはいって来る。ハツラツとした男の体臭が汐のように部屋に流れて来て、学生好きの、八重ちゃんは、書きかけのラヴレーターをしまって、両手で乳をおさえてしなをつくっている。

二階では由ちゃんが、サガレン時代の業だと云って、私に見られたはずかしさに、プンプン匂う薬をしまってゴロリと寝ころんでいた。

「世の中は面白くないね。」

「ちっともね……」

私はお由さんの白い肌を見ていると、妙に悩ましい気持ちだった。