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しんぱん ほうろうき
新版 放浪記
林 芙美子
「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页
部屋には灰色に汚れた空気がよどんでいた。路地口の窓を開けて、俊ちゃんは男のようにピョイと地面へ飛び降りると、湯殿の高窓から降した信玄袋を取りに行った。私は二三冊の本と化粧道具を包んだ小さな包みきりだった。
「まあこんなにあるの……」
俊ちゃんはお上りさんのような恰好で、蛇の目の傘と空色のパラソルを持ってくる。それに樽のような信玄袋を持っていて、これはまるで切実な一つの漫画のようだった。小川町の停留所で四五台の電車を待ったけれど、登校時間だったせいか来る電車はどれも学生で満員だった。往来の人に笑われながら、朝のすがすがしい光りをあびていると顔も洗わない昨夜からの私達は、薄汚く見えただろう。たまりかねて、私達二人はそばやに飛び込むと初めてつっぱった足を延ばした。そば屋の出前持ちの親切で、円タクを一台頼んでもらうと、二人は約束しておいた新宿の八百屋の二階へ越して行った。自動車に乗っていると、全く生きる事に自信が持てなかった。ぺしゃんこに疲れ果ててしまって、水がやけに飲みたかった。
「大丈夫よ! あんな家なんか出て来た方がいいのよ。自分の意志通りに動けば私は後悔なんてしない事よ。