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めいじびじんでん

新編 近代美人伝 (上)

長谷川 時雨

長谷川時雨『新編 近代美人伝 (上)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:明治美人伝、明治大正美人追憶、樋口一葉、一世お鯉、大橋須磨子、竹本綾之助、豊竹呂昇、平塚明子(らいてう)、松井須磨子、芳川鎌子。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,076 字 · 256 页

青空文庫

彼女は江戸が東京になって間もない赤坂で、常磐津の三味線をとって、師匠とも町芸者ともつかずに出たが、思わしくなかったので、当時開港場として盛んな人気の集った、金づかいのあらい横浜へ、みよりの琴の師匠をたよって来て芸者となった伝法な、気っぷのよい、江戸育ちの歯ぎれのよいのが、大きな運を賭てかかる投機的の人心に合って、彼女はめきめきと売り出した。その折、彼女の野心を満足させたのは、横浜と共に太ってゆく資産家野沢屋の旦那をつかまえたことであった。

野沢屋茂木氏には糟糠の妻があった。彼女は遊女上りでこそあるが、一心になって夫を助け家を富した大切な妻であった。その他に野沢屋には総番頭支配人に、生糸店として野沢屋の名をなさせた大功のある人物があった。その二人のために、さすがに溺れた主人も彼女をすぐに家に入れなかった。長い年月を彼女は外妾として暮さなければならなかった。

茂木氏夫妻には実子がなかった。夫婦の姪と甥を呼び寄せ、めあわせて二代目とした。ところが外妾の方には子が出来た。女であったので後に養子をしたが、現代の惣兵衛氏の親たちで、彼女が野沢屋の大奥さんとして、出来るだけの栄華にふける種をおろしたのであった。