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たびだち
旅だち
豊島 与志雄
――近代説話――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,059 字 · 24 页
副島の伯父さんは、時々、彼の方へも言葉を向けました。彼は自分から話をしだすことはありませんでしたが、他から話を向けられると、当り障りのない中庸を得た返事をしました。つまり、なるべく率直な調子でなるべく何事も言わないという要領を、よく心得ているようでした。けれどこのことについては、敏子にはよく分りませんでした。政治のことや、経済のことや、法律のことなど、しかも敏子にはあまり関心の持てない事柄が、主な話題となっていました。その合間には話題もくだけて、魚釣りのこと、競馬のこと、碁将棋のことなども、持ちだされましたが、そのどれに対しても、彼は妥当な意見を持っているようでした。碁と将棋とどちらが面白いかということについて、彼は言いました。
「上達が速いか遅いかによって、きまると思います。碁の方に速く上達する人にとっては、碁の方が面白いでしょうし、将棋の方に速く上達する人にとっては、将棋の方も面白いことでしょう。」
そういう意見は、話を発展させる代りに、話を萎ませるのに役立つだけでした。そして彼自身は、至極真面目に、何事にも耳を傾けながら、一座の人々と同じように、菓子をたべ、ピーナツをつまみ、コーヒーにちょっぴりウイスキーを注いで飲みました。