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たびのたびのたび
旅の旅の旅
正岡 子規
「日本」1892(明治25)年10月31日から四回
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,120 字 · 10 页
疲れたる膝栗毛に鞭打ちてひた急ぎにいそぐに烏羽玉の闇は一寸さきの馬糞も見えず。足引きずる山路にかかりて後は人にも逢わず家もなし。ふりかえれば遥かの山本に里の灯二ッ三ッ消えつ明りつ。折々颯と吹く風につれて犬の吠ゆる声谷川の響にまじりて聞こゆるさえようようにうしろにはなりぬ。
枯れ柴にくひ入る秋の蛍かな
闇の雁手のひら渡る峠かな
二更過ぐる頃軽井沢に辿り着きてさるべき旅亭もやと尋ぬれども家数、十軒ばかりの山あいの小村それと思しきも見えず。水を汲む女に聞けば旅亭三軒ありといわるるに喜びて一つの旅亭をおとずれて一夜の宿を乞うにこよいはお宿叶わずという。次の旅亭に行けば旅人多くして今一人をだに入るる余地なしという。力なくなく次の旅店に至れば行燈に木賃と書きたる筆の跡さえ肉痩せて頼み少きに戸を開けば三、四畳の間はむくつけくあやしきおのこ五、六人に塞がれたり。はたと困じ果ててまたはじめの旅亭に還り戸を叩きながら知らぬ旅路に行きくれたる一人旅の悲しさこれより熱海までなお三里ありといえばこよいは得行かじあわれ軒の下なりとも一夜の情を垂れ給えといえども答なし。