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りょかくきじけん
旅客機事件
大庭 武年
「探偵」駿南社、1931(昭和6)年11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,209 字 · 21 页
助手の操作する発動機の響が、三枝の語尾の顫えをかき消した。池内は、銜えた煙草の最後のけむりを、大きく肺に吸い込むと、
「そうかい、今日も不漁なんだね」
とさりげない冗談を言って、
「――じゃ一寸行って来るとしようか」
と簡単に事務所の扉を後にした。が、丁度彼が、飛行場の緑草を、機翼をビリビリ逸りたつように顫わせている、フォッカアユニバアサル機の方に歩いて行く途中頃で、まもなく後から追いついて来たらしい三枝に、名を呼ばれた。池内は振り返って足を止めると、三枝は日頃にない落ちつかない声で、
「あのね、今日は飛行中一寸頼んで置き度い事があるんだがな」と言った。
「何だい?」
「実は」と変にまぶしげに同僚の顔を眺めた三枝は「H飛行場に着く迄、じっと航空路の各地点の現様に気をつけていて欲しいんだ」
「何だい――」池内は不審気に「其麼事、君がちゃアんと見ていればいいじゃないか?」
「うん、だが――」
三枝はもろくも狼狽して、顔をあらぬ方へ逸らしたが、すぐ気持を盛りかえすように、
「兎に角、僕も気をつけている事にするから君も頼むよ。是非、どうか……」
と言い捨てると、その儘駈足で機の方へ走って行って了った。