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たびやくしゃのつまより
旅役者の妻より
矢田 津世子
「文学界」1934(昭和9)年8月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,566 字 · 14 页
暑い暑い言うたのも束の間にてもはや秋風たちはじめ、この頃では朝夕膚さむいようになりましたが、まことに久しくおたよりも致さず、あね様はじめ小さい菊ちゃんにもお変りもあらせられませんか。おうかがい申上げます。思えばいまだ暑い盛り、油津よりおたよりいたせし以来今日まで何らの音信もいたしませず、さだめし、いずこいかなるところをさまよい居るかと雨につけ風につけお噂にのぼりお心なやませし御事と今更のように相すまぬ心地がいたします。いつも御地のこと心にかかりつつも余りに浅間しく悲しき身の上に、いつもいつもつい一度として嬉しきたよりは聞えあげぬこととて、何んとか身の落ちつきのついてからと一日一日と長びきて加様に御無沙汰いたせし次第、何卒御免下され度候。
あね様。
おたよりせなんだ約百日ばかりの間、言葉につくせぬ苦労をなめました。
日向路さしてさまよいこんでよりつい一日として好い事とてはなく、慣れぬ水、慣れぬ気候にあてられて親子三人が病いの床につく有様、わたくしは昨冬弓子の産後の不養生が今にさわりて痩せ衰え、ひきこんだ風邪がいまだにぬけず、朝夕の苦しい咳といったら、胃の腑までもつきあがってくる思い、良人にも勧められて仕様ことなく診察してもらいましたところ慢性の気管支かたるとのこと、余りに烈しく咳する時は肺にかかる怖れが