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たびやくしゃのつまより
旅役者の妻より
矢田 津世子
「文学界」1934(昭和9)年8月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,566 字 · 14 页
切りをつけて靴の方へ手出しをしてみようかと思っている矢先きだから資金の調達をせねばならず、心に思うばかりにてつくせぬのはざんきの至りである、加様な有様なれば自分など頼りにせず、おかよさんのお父御にすがって何んとかして貰うてはどうだろう、とのお言葉。良人は病いの床の気短く、泣いたり怒ったりいたしますのを、傍にみていた鶴江がまわらぬ口にて、お父うちゃんお芝居のお稽古、など悦び手を叩くには良人も思わず笑ったことでございます。
思いかえせば永いことながら、伊助を岡村へおいてきてからもはや十二年、旅烏の身には何かと不自由させがちの子供をつれて歩くのは不憫にて、幸い、あと継ぎがないから、という岡村のあに様のたっての所望に、倅の身のためとも思い絞らるる胸をおしほどいて渡しはしたものの、忘れる日とてはなく、立派な学校へ入れて頂いて居ります仕合せも我がことのように嬉しいのですが、たよりの度に伊助が伊助が、と伊助を恩にきせた金の断り様、いつぞや訪ねた時の、大食いの、穀つぶしの、と育ち盛りの子をつかまえての叱り様を思い合せては、この身もつらく、手を合せて貰ってくれ、と願ったわけではないのにと、時には愚痴も言いとうなるのです。