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りょこうのこんじゃく
旅行の今昔
幸田 露伴
「新聲」1906(明治39)年8月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,174 字 · 5 页
特更あれは支那流というのですか病人流というのですか知りませんが、紳士淑女となると何事も自分では仕無いで、アゴ指図を極め込んで甚だ尊大に構えるのが当世ですネ。ですから左様いう人が旅行をするのは何の事は無い、「御茶壺」になって仕舞うようなものですテ。ハハハハ。「御茶壺」というのは、むかし将軍御用の御茶壺を江戸まで持って来る、其の茶壺は茶壺の事ですから眼も鼻も有りは仕ませんし手も脚も動かしは仕ませんが、それでも其の威勢は大したもので、「下に居ろ、下に居ろ」の格をやって東海道を江戸へ来たものだそうです。そこで古風の人がタマに当今の人に其の御茶壺の話を仕て聞かせると、誰も噴飯して笑うので有りますが、当今の紳士の旅行の状態を見ると、余り贅沢過ぎて何の事は無い、つまり御茶壺になって歩いて居るのだ、と或人が評を仕ましたのを聞いて、甚だおかしいと思って居ります。面白いものです。金が有って地位が有って、さて威張って見ると「御茶壺」になるのですナ。
で、其の御茶壺旅行の出来るようになったのは文明の庇陰なのですから、今後はもう「きりをの草鞋」「紺の甲掛け」「三度笠」「桐油合羽」