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ひはかがやけり
日は輝けり
宮本 百合子
「中央公論」1917(大正6)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 76,445 字 · 152 页
その日の来るまで、彼の仕事をしつづけて行かなければならないのである。今ここで臆測してみたところで、解ろうはずのことでない、その万一の遺伝が現われるかもしれぬ日を怖れて、それまでの、どのくらいかの時間を空費することは彼には出来なかった。また、一方からいえば、万一遺伝されているかもしれぬと同様の万一さで、自分が除外例の者となっているかもしれない。きっとそうでないとは、誰が断言出来よう? それほどどちらも万一のことなら、出来るだけ明るい方面を見て進むべきであるのは、考えとしては解っている。けれども、気が狂ってしまった自分の姿を想像すると、静まったはずの心もとかく乱された。苦しくならずにおられなかったのである。
今まで無意識に過ぎていたいろいろの精神作用――例えば人なみより強いと思われる想像力が突拍子もない幻影を見ること、ゴム風船を危かしくてふくらがせないような心持――が、皆病的ではないのかと案じられ始める。今にも微細な頭の機関が、コトリと調子を脱してしまいはすまいかと思われたりして、暫くの間浩は、非常に神経過敏にされていた。夜も、急に不安に襲われて飛び起きたきり、眠られないようなことさえあったけれども、日常の、厭でも応でも頭脳を秩序立てさせる事務が、いつとはなし自然にそれ等のことを恢復させた。