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ひはかがやけり
日は輝けり
宮本 百合子
「中央公論」1917(大正6)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 76,445 字 · 152 页
彼は力抜けのした様子で、立ちよどんでいると、さっきからその様子を見ていた年寄が、
「今の夕刊売かね? そんならホラ、そこの角を曲って行きましたよ」と教えてくれた。
東京の大通りのかげには、よく思いがけないほど狭く、ごちゃごちゃと穢い通りがある。その通りもその一種で、細く暗い道一杯に、饐えた臭いが漂っていた。ぼんやりした明りにすかして見ると、一ヵ処窪んだ、どこかの裏口らしいところに、むこうを向いた一つの影が立っている。
「あれだ!」
また遁げられては大変だという虞れで、心が一杯になった浩は、恥も外聞も忘れて、四這いになるほど体をかがめ、どんなに昼見たら穢いか分らない道の片側にぴったり身を引きそばめて、息を殺して一歩、一歩と動いて行った。変則な緊張で彼はほとんど不愉快なほど、奇妙に興奮していた。視点がはちきれそうな鼓動と一緒に近づいたり遠のいたりするようにも感じられた。
そして、終に手が届きそうな近くまで来たとき、浩は一飛びに飛んで、庸之助の着物の端を、どこという見さかいもなく掴んだ。驚愕の衝動が、彼の手のうちに感じられた。このとき、そのままそこに坐りこんでしまいたいほどの安心と、憎しみに近いほどの、強い強い愛情とで、浩の胸は震えた。