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ひびのパン

日日の麺麭

小山 清

「新女苑 第二十巻第四号」実業之日本社、1956(昭和31)年4月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,039 字 · 11 页

青空文庫

我慢できなかったの。」

末吉は口籠って、苦笑いした。抑えて抑えられないわけのものでもなかったのだ。

その頃、末吉はグラフ雑誌の反故(それはおしげが買ってきた林檎の紙袋であったが)で、戦争中、ドイツ軍がパリを占領していた当時、ドイツ軍人の妾をしていたフランス女が、再びパリがフランス軍の手に帰したときに、同胞の手で頭髪を坊主にされて、ドイツ軍人との間に出来た幼児を抱えて、同胞たちの指弾の視線を浴びて、街中を追われてゆくところをうつした写真を見た。なんの気なしにリンゴの袋をほごしてひろげてみたのだが、末吉の目はその写真にすいつけられた。胸の痛むような気持がした。説明書きを読んでなるほどとは思っても、末吉には写真の中の人達のようにその女に対して憎しみも反感も持てるわけのものではなかった。末吉はそこに同胞の冷酷な視線に晒されている哀れな母と子の姿を見た。末吉はなによりもその女に向けられている人々の目つきに心を刺された。

誰の目にも同じような嘲弄の色が見えるばかりであった。そして末吉の心につよく訴えてきたものは、人々がこのような目つきで隣人を見ることをやめない限りは、世の中は住みよいものにならないという思いであった。