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うつりが
日本の文学 8 田山花袋 岩野泡鳴 近松秋江
近松 秋江
近松秋江『日本の文学 8 田山花袋 岩野泡鳴 近松秋江』。同一底本的分册已合并为一书。收入:うつり香、黒髪、狂乱、霜凍る宵。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 152,306 字 · 300 页
……これからいって見ようか……」
柳沢は私を戯弄うのか、それとも口では何でもなくいっていても、その実自分で大いにお宮に気があるのか、あるいはまた影の薄い私が思うようにお宮の顔を見ることが出来ぬのを惨めに思って、お勝手口の塵埃箱に魚の骨をうっちゃりに出たついで、そこに犬のいるのを見て、そっちへ骨を投げてやるように、連れていってお宮に逢わしてやろうというお情けかと、私はちょっと考えたが、それはどちらにしたって構わない、とにかく柳沢とお宮と一座したら、両方にどんな様子が見られるか、柳沢にはお宮が好いのには違いない。そう思案すると、
「ああ、行ってもいい」
これから二人はややしばらく気の置けない雑談に時を過しながら点燈ごろから蠣殻町に出かけていった。
柳沢は歳暮にしこたま入った銭の中から、先だって水道町の丸屋を呼んで新調さした越後結城か何かのそれも羽織と着物と対の、黒地に茶の千筋の厭味っ気のない、りゅうとした着物を着て、大黒さまの頭巾のような三円五十銭もする鳥打帽を冠っている。私はあの銘仙の焦茶色になった野暮の絣を着て出たままだ。
小石川は水道町の場末から九段坂下、須田町を通って両国橋の方へつづく電車通りにかけて年の暮れに押し迫った人の往来忙しく、売出しの広告の楽隊が人の出盛る辻々や勧工場の二階などで騒々しい音を