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にほんふどうき
日本婦道記
山本 周五郎
梅咲きぬ
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,286 字 · 16 页
「御覧いただくようなものはございませんけれど」
予感というのであろう、加代の心はつよく咎められるような不安を感じた。かな女は部屋をきれいに片づけ、香をいて待っていた。この屋敷には梅の木が多かった。とりわけ隠居所の前には亡きあるじ三郎左衛門が「蒼竜」と名づけた古木があって、佶屈とした樹ぶりによく青苔がつき、いつも春ごとにもっとも早く花を咲かせる。いまもまだほかの梅は蕾がかたいのに、ここではもう梢のあちらこちら、やわらかくほころびかかっているのがみえた。ぬれ縁から部屋の畳一帖ほどまで陽がさしこんでいた、微風もなく晴れたうららかな朝で、いかにも春の近いことを思わせる暖かさだった。加代はきちんと坐り、膝の上に重ねた自分の手をじっと見まもっていたが、一睡もしなかった疲れがしだいに出てきて、ともすれば気が遠くなりそうなほどのねむけに襲われた。
「昨夜お詠みなすったのはこの寒夜の梅というのですか」
十枚ほどある短冊をゆっくりみていたかな女が、さいごの一首をつくづく読んでから云った。
「……はい」
「みごとにお詠みなすったこと、本当に美しくみごとなお歌ですね」
「お恥ずかしゅうございます」