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にほんふどうき

日本婦道記

山本 周五郎

不断草

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,765 字 · 21 页

青空文庫

「ようやくおまえさまのお世話をして呉れる者がみつかりました」

市左衛門はそう云いながら菊枝を促して座へあがった、

「この屋代の者で名はお秋といいます、親きょうだいのないひとり身で気のどくな娘ですから。どうかおめをかけてやって下さいまし」

「それはそれはおかわいそうな」

姑はこちらへ膝を向け、かいさぐるような表情をみせながら云った、

「わたしもこのとおり眼の不自由なからだです、いろいろ面倒であろうがどうかよろしくお願いしますよ」

「もったいない仰せでございます、秋と申しますふつつか者、どうぞおたのみ申します」

気づかれてはならぬと思い、つぶやくような声でそう云いながら、菊枝は濡縁へぴったりと額をすりつけた、市左衛門はそばで眼をうるませながらしきりに頷いていた。

あくる朝はやく、まだうす暗いうちに起き出た菊枝は、隠居所の横にひらけている畠の隅へいって、持って来た唐苣の種子を蒔きつけた。畠地のうしろの松林に濃い朝靄がおりていて、その樹の間をしきりに小鳥が啼きながら飛び移っていた、頬白であろう、よく徹る美しい音色がきんきんと林へこだまし、筧をはしる水の囁きと和して、どんな山奥へ来たかと思われるほど閑寂たる気持にさそわれた。