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にほんふどうき
日本婦道記
山本 周五郎
不断草
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,765 字 · 21 页
経ってみるとつきひほど早いものはなく、五年の星霜は夢のまにすぎて安永六年の秋を迎えた。四五日つづいてけぶるような雨の降ったあと、にわかに空が澄みあがって、松林をわたる風もやや肌寒く感じられる一日、下野の宇都宮から音信があって三郎兵衛の病臥を知らせて来た。手紙は宿の者が書いたので、五十日あまりまえからの病状と、今ではどうやら恢復期になって案ずることもないという意味が精しくしたためてあった。菊枝は胸のふさがるおもいで読んだ、姑は聞き終ってからしばらくなにか考えているようすだったが、やがてしずかに盲いた面をあげ、
「おまえみとりにいってあげてお呉れ」
と云った、
「旅で病んではさぞ心ぼそいことでしょう、わたしはしばらくの辛抱です、いいからすぐにいっておあげ、おまえがいっても、もう意地を張るきづかいはないのだから……」
菊枝はあっと息をひいた、きわめてしぜんな姑の口ぶりには、自分を三郎兵衛の妻と認めていることがはっきりと示されている、あまりに思いがけないことだった、それとも自分が意味をとりちがえて聞いたのであろうか、すぐには返辞もできない菊枝の昏乱した気持を、老母はそれと察したのであろうか、