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にほんふどうき

日本婦道記

山本 周五郎

墨丸

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,091 字 · 30 页

青空文庫

藤九郎の父はかつて忠善の側近に侍していたことがあるし、話の首尾がととのっているので、六弥もこんどは笑わなかった。

「そのことに就いて別にもう一つ秘事があるんだ」

と、藤九郎は黙っているみんなの顔を見まわしながら続けた、

「今から十余年まえに、江戸屋敷で小出小十郎という者が切腹して死んだ、あれは岡崎でもかなり評判になったから知っているだろう」

そのことはみな覚えていた。小出小十郎というのは島原の陣でめざましくはたらいた浪人で、忠善にみいだされて篤く用いられた。ひじょうに一徹な奉公ぶりで知られ、重代の者にも云えないような諌言をずばずば云うし、家中とのつきあいなども廉直無比で名高かった。それがちょうど十二年まえの正保二年、忠善の忿りにふれて生涯蟄居という例の少ない咎めをうけたが、彼はその命のあった日に切腹をして死んだのである。

「あのとき重科にかかわらずその理由は不明だったが」

と、藤九郎は言葉を継いだ、

「実はうえもんのすけさまの事に就いて直諌したのだそうだ、あのころはまだ造酒之助さま御在世ちゅうだった、小十郎は御家の血統のために右衛門佐さまを廃し、造酒之助さまを世子にお直しあるよう、繰返しお諫め申したという、殿には『あらぬことを申す』