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にほんふどうき

日本婦道記

山本 周五郎

墨丸

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,091 字 · 30 页

青空文庫

「琴のほかに学問も続けたいと云っておられるし、さいわい京には北村季吟と申す学者がおり、以前から親しく書状の往来があるので、私から頼めばせわをして呉れることでしょう、お石どのは国学にも才分がおありだから、場合に依ればこのほうでも身を立てることができると思います」どうか望みをかなえてお遣りなさるように、老学者らしい朴訥な口ぶりでそう云うのだった。平之丞はもういけないと思った。母も諦めるよりほかはなかった。然しどんなにくやしかったことだろう、

「わたしはもうあの子のことは考えるのも厭です、好きにするがいいでしょう」

きびしい言葉でそう云い云いしたが、その顔には悲しい落胆の色がありありとみえた。

おそらくは実のむすめに反かれたよりも、悲しく、辛く、くちおしかったに違いない。それでもいよいよ京へ去る日が近づくと、

「身よりのない子だから」

と云って、夏冬のしたくを作ったり、細ごました道具を買いととのえたりし、出立のときには自分で髪を結ってやったりした。

「いどころが定ったら便りを下さいよ」

別れには母はこう云って泣いた、

「あなたが考えるより世間はきびしいものです、いつどのようなかなしいことにゆき遭うかもわかりません。