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にほんふどうき

日本婦道記

山本 周五郎

墨丸

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,091 字 · 30 页

青空文庫

二

とか「ご膳でございます」とか、そのほかこまごました取次は殆んどお石の役になった。……いっしょに暮すようになって以来、しだいに近しい気持もうまれ、実の妹をみるような一種の愛情さえ感じだしたが、それとてかくべつ深いものではなかったので、そのとし元服してから、平之丞は再びお石に対して無関心になっていった。

お石が十三になった年のことである。春さきのことだったが、ふと平之丞の部屋へはいって来て坐った。なにか用事かと訊くと、珍らしくもじもじしながら「文鎮を貸して頂けませんでしょうか」といった。

「お石は持っていないのか」

「いいえ持っておりますけれど……」

そう云いかけて眩しそうに眼を伏せた。

「持っているのに欲しいのか」

そう訊くと、お石は思いきったという風にはいと頷き、

「いつも文箱の上に載っているあの文鎮を貸して頂きたいのです」

と云った。

二

平之丞は文箱の上を見た。それは彼が亡くなった祖父から貰ったものである、幅七分に長さ五寸あまりの翡翠で、表には牡丹の葉と花が肉高な浮彫りになっている、翡翠といっても玉にするほどの品ではないが、琅がかった緑の深い色が流れたように条を描いているのも美しいし、なめらかな冷たい手触りや、しっとりとしたちょうど頃合の重さなども好きで、彼の持物の中では大切にしている品の一つだった。