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そうしゅん
早春
豊島 与志雄
「苦楽」1947(昭和22)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,457 字 · 20 页
そんな売り食いの仕方は自慢になるもんじゃない。だが、北川さんは自慢そうな笑顔をしているんだ。
おれが眉根をしかめてみると、北川さんは何を勘違いしたか、おれの肩を一つ叩いて言った。
「とにかく、梅の木を持って来てくれたんだから、酒でも出さなくちゃなるまい。それに、両親が来るというから、そうなったら、ちと大変だ。米も足りないし、御馳走はなにもないし……ひとつ奔走してくれよ。」
言うことは道理だが、考えの根本がどうもおかしい。竹中さんにかぶれたのかも知れない。
「万事引き受けますよ。」
安心さしておいて、おれはまず、牛の煮込み屋の用だけは果してやった。だが、それだけで逃げるわけにもゆかない。なんだか気の毒だ。度が少し曲りかけてるお母さんを手伝って、台所の用をしてやった。
ささやかな酒宴がはじまった。竹中さんもいけるたちらしい。酒がまわるにつれて、妙な話題が出てきた。おれは台所の用をすまして、縁側に置いてある電熱器で、手製の煎餅をやきながら聞いていた。
――世の中は隙間だらけだというのだ。原子とか分子とかいうものにも、隙間がある。そういうもので出来てる物質も、隙間だらけだ。