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そうしゅん
早春
豊島 与志雄
「苦楽」1947(昭和22)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,457 字 · 20 页
わたくしはただ、貞夫さんだけにお目にかかれば宜しいので、外に用はございません。」
最初から角のある言い方だ。おれはどきりとした。だが不思議だった。当の竹中さんも、北川さんも、黙りこんだだけで、平気な顔をしている。
山口は竹中さんの方を向いて、ずばりと言った。
「あなたをお迎えにあがったんですが、お帰りなさいましょうね。」
「ああ帰るよ。」
おれにまで丁寧な竹中さんとしては、これはまた至極ぞんざいだ。山口は大きく頷いた。
「それで安心致しました。御両親もたいそう心配しておられますし、これから……。」
「あ、お父さんとお母さんは、いつみえるかね。」
山口は小さな眼をしばたたいた。
「こちらへ来られることになっていたが……。」
「とんでもないことを仰言います。わたくしが代理でお迎えにあがったんでございますよ。」
両親が来るというような竹中さんの言葉は、山口の憤慨を爆発させたらしい。彼は俄にまくし立てた。言い廻しは丁寧だが語調は荒かった。――昨日から貞夫が帰らないので、家の者は心配していた。貞夫はまだ充分に病気がなおってもいないし、物騒な時節柄だ。気をもんでいると、一昨日、庭の梅の古木を、植木屋が掘り返して、どこかへ運んだことが分った。